「TOEIC500点でも翻訳者になれる」と仰る方がいるとか、そんな方が翻訳の講座を開いているとか、世の中には常識では信じられないことがあるようです。
ウェブ上、英語翻訳のお仕事で・・・と銘打ったインタビューで次のようなやり取りを目にしました。
「TOIECは何点あれば良いですか?」
「500〜600点あれば大丈夫です。」
なめとんのかボケッ…あ、心の声が漏れてしまいました。上記は当該ウェブページからそのまま引用しました。「TOIEC」とありますが、もちろん「TOEIC」の誤りでしょう。それは置いておいて、この会話をどう思われるでしょうか。
TOEICのスコアについて、まず社会人としての経験から申し上げます。500点では、企業で英文メールを書くこと、英会話でビジネス上のコミュニケーションを図ること、どちらも困難を極めるでしょう。もちろん、英文や相手の言うことを十分理解することもできなければ、思うように書くことや発言することもできません。
では、TOEICでどのくらいのスコアがあれば翻訳というものをできるのか。答えは簡単です。満点であっても翻訳をできる人もいれば、できない人もいるということです。そもそもTOEICでは翻訳や通訳の力を測ることができないのです。あくまで英語の基礎的な力の一部を見るための試験なのですから。
わたしは英語を日常的に使用する職場(メールや文書作成が主なものでしたが)で採用活動に携わり、たとえばTOEICでどのくらいのスコアが必要かと聞かれたことがあります。おおよそ次のように回答したと記憶しています。「TOEICでこの仕事に必要なスキルを判断することはできませんが、あえて言うなら800点か900点でしょうか。ただし、たとえば700点でもコミュニケーション能力や要領によっては対応できる人がいるかもしれません」
TOEICというものは、英語力がある程度のレベルに達していれば、それなりのスコアはとれるものだと考えています。そのスコアは英語力の一部を見るものであり、翻訳や通訳に必要なレベルを判断できるものではありません。ただ、はっきり言えるのは、そのTOEICで500点や600点ということは、基本的に英語を十分に理解したり、使ったりすることはとてもできないレベルであることです。
TOEICでも何でも、上を目指すことは英語力を向上させるための手段としてはあるレベルまでは有効かもしれません。それでも、翻訳や通訳というものはその先のスキルが必要なものなのです。英語力と言われるものはあくまで当たり前のものであり、その上で原文英語を深く理解すること、専門分野や用語などについて調査して裏を取ること、それを対象読者に読みやすい日本語として、またクライアントに満足いただける形で出力することが必要なのです。
実力もないのに楽して簡単にできる専門的な仕事などありません。翻訳を目指そうという方がそのような講師や講座に騙されることのないよう祈っています。わたしもまだまだこれから成長しなければならない身ですが、同じ志を持ってともに成長できる仲間になっていただけたら、そんなうれしいことはありません。まずはそんなものに騙されないだけの目と常識を持ちましょう。では。
TOEIC500くらいで翻訳できるのは、個人間のシンプルなメールくらいでしょうか。。。
そもそも、TOEICや英検で、翻訳に必要なライティング能力は測れないですよね。
以前参加したセミナーで、それを実感する体験をしました。
下記2文は、ボランティアのための某通訳ガイドセミナーで配布された資料の一部です。
和文とその英訳を見て驚きました。
主語と動詞の不一致というようなごく初歩的なミスの他、辞書の言葉を当てはめただけのような、
いかにも日本人が訳した感一杯のおかしな英文になっています。
不思議なのは、講師が自分の英語に相当な自信を持っていること。
明らかにネイティブチェックを受けていない不自然な英文を、参加者に音読までさせました(+o+)
この講師は、英検1級他、複数の英語検定試験で高得点を取得し、大学等で通訳も教えている方なんです。。。
①今また、21世紀の観光施設として甦り、あなたの緊張やストレスを和らげます。
⇒日本人講師英訳:Now again, this area were revived as a sightseeing place in the 21st century to ease
your strain and stress.
②いきなりツアーを始めるのは良いとは思えません。わかりやすく全体を4つに分けて色分けしたのでこの図を見て下さい。
ブルーが見る施設、ブラックが買う施設、オレンジが食べる施設、グリーンが体験する施設です。
⇒日本人講師英訳:I don’t think it’s good for you to suddenly start your tour. Therefore, I hope that
you’ll roughly understand the map of this facility.
I separated by color the entire facility to 4 different categories. Blue facilities are places to see,
black ones are places to buy, orange ones are places to eat and green ones are places to experience.
個人的にとても気になったので、ネイティブにざっと訳してもらいました。
①ネイティブ試訳:This has now become a tourist spot for the 21st century, where you can go to
relieve stress and ease tension.
②ネイティブ試訳:Before setting out, you can familiarize yourself with the main point of interest,
with this map. The map is color-coded. Blue indicates sightseeing spots, black indicates places to shop,
orange for places to eat, and green identifies places where you can take part in various activities.
日本語から翻訳された英文をきちんと評価できる発注者が少ないので、多様なサイトや資料に変な英文が
掲載されています。こちらが指摘しても、発注者が理解しやすい直訳的な変な英文の方が好まれたり、
直訳的に修正依頼されたりする現状に、もうあきらめモードです。
コメントありがとうございます。
資格を持っていたり、試験で点数がとれればそれが何らかの保証になるというものではありませんよね。ただ、日本人は肩書きや名前に弱いであろうことも事実。それどころか、日本企業では英文科卒といえば翻訳も通訳もできるんでしょと思っているふしがあり、同じくうんざりすることがあります。あきらめるしかないような気持になりますが、まだエージェントでの仕事も続けていますので、できる限りクライアントには翻訳の難しさをお伝えしようと思います。
ちょっと話がそれてしまったかもしれません…