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翻訳とWeb制作を基礎から分かりやすく学ぶ

チェッカーは翻訳者より楽な仕事、ではありません

翻訳業を舐めきっている方がいらっしゃいます。しかもどういうことか翻訳の講座を開いているようです。その方が、ついにはチェッカーをも舐めた発言をしました。

最近話題になっている某氏のツイートです。
「チェッカーから仕事始めるのは、ハードルが低いのでオススメですね。」
「会社訪問すれば、自分の評価や、どの分野をやってほしいとか、仕事が出せない場合はチェッカーからやらせてもらうとか、交渉しやすいのでぜひ実践してみてくださいね。」

なめとんのかボケッ…あ、またしても心の声が漏れてしまいました。この方、ツイッターのプロフィールには「在宅翻訳/翻訳家」と書いていますが、本当に翻訳業をしているのでしょうか。だいたい「翻訳者」と「翻訳家」の違いは認識していらっしゃるのでしょうか。

チェッカー、レビューア、プルーフリーダーなど呼び方はさまざまですが、どれも同じく翻訳者による訳文を確認し、必要に応じて修正する仕事です。翻訳会社に在籍している方もいらっしゃればフリーランスの方もいらっしゃいます。

さて、このチェックという仕事にはどの程度のレベル、またはスキルが必要なのでしょうか。とりあえずチェッカーから、という程度で出来る仕事なのでしょうか。チェッカーで経験を積んでから翻訳者になる、というような単なる足掛かり程度の仕事なのでしょうか。

悲しいことに、「まずはチェッカーから…」と求人募集する翻訳会社や人材派遣会社があるのは事実です。そのようなものを目にして「まずはチェッカーで経験を積もうかな」と考える人が生まれるのもやむを得ないことかもしれません。それでも申し上げなければなりません。これは間違いです。どうしてか、ちょっと考えてみましょう。

まず理解すべきは翻訳のプロセスです。たとえば、英日翻訳は英語を読んで、わからない単語を調べて、日本語にするというようなものではありません。まず原文である英語を読み、書かれているメッセージを頭の中でイメージして、そのイメージを訳文である日本語で正確に表現します。英文を読んでイメージをする際とにかく調べます。言葉も専門知識も何もかも調べます。訳出の際には日本語として正しい表現かどうかを調べ検討します。よく言われることですが、このプロセスで頭の中では原文と訳文の間を何十回、何百回となく行ったり来たりします。決して単純なものでも簡単なものでもありません。

次にチェックについて考えてみましょう。初めて見る英語と日本語訳を目の前にしてどこをどうチェックしますか?それは簡単にできると思いますか?簡単にできると思われるとしたら、なぜ簡単だと思うのでしょうか?

わたしはこれまで数件ですがチェックの仕事をしたことがあります。今では極力お断りしています。その数件で自分にはまだ無理だということが十分わかったのです。

今まで数社からチェックをお受けしたのですが、その単価は翻訳のおおよそ3割程度といったところでしょうか。それだけ短時間でできる仕事ということでした。ところがわたしはその何倍もかかりました。当たり前なのです。チェックをするには、原文の意図を訳文で正確に表現できているか判断できなければなりません。そのためには翻訳者と同じく原文を理解する必要があります。まず原文を読んで理解することで時間がかかったのです。その後、または原文を理解しながら訳文を確認しました。自分の頭の中でイメージが十分湧く前に確認しました。正しいか判断できません。イメージが湧くまで原文を理解しようとしました。時間がかかりました。結局、軽く見積もっても翻訳と同程度には時間がかかったのです。

チェックの仕事を十分な利益を確保しながらこなせるとしたら、恐らく、翻訳者と同等かそれ以上のスキルを持ち、当該分野に造詣が深く、調査に時間をかけずとも原文を理解できるだけの力が必要なはずです。でなければ翻訳の何倍ものスピードで対応することは困難でしょう。それでも、訳文の質が低ければ、修正に時間がかかり、場合によっては一から翻訳し直すことになる場合もあるでしょう。とても素人ができる仕事ではないのです。

それでも、その某氏のお話が正しいとお思いであれば未経験でもやってみればよいと思います。難しいと感じるはずです。楽なもんだと思えるようでしたら、きっと翻訳という仕事には向いていないでしょう。言葉はそんなに簡単なものではありません。某氏を信じる方には何を言っても伝わらないかもしれませんが。

うまくまとまりませんが、このへんで失礼します。


コメント

“チェッカーは翻訳者より楽な仕事、ではありません” への2件のフィードバック

  1. 高原昭典 より:

    申し訳ないですが、それは正論ですが、残念ながら翻訳会社の求めるチェックではありません。翻訳の3割程度の報酬ですから、翻訳会社でもそこまでのチェック品質は求めていません。
    現状は、翻訳はできなくてもチェックならできるから、チェックしながら翻訳の勉強をする程度の仕事になっています。
    チェックの最大の目的は、ISOで定められた基準を守るためには最低2回のチェックが必要だからですが、ISOではチェックの品質は求められていないのが不思議です。

    • kyasu04 より:

      何をチェックするのか、どういった品質を目標とするのかなどによって、チェックの内容も変わってくるでしょう。翻訳会社の中に訳文の品質を(正確性のみならず読みやすさも)求めるところもあるでしょうし、仰るようにISOなどの基準を守るため、あるいは自社で過去に発生した不具合への対策として策定したため義務化されているため、チェックをしているだけというところもあるでしょう。
      前者であれば、まずチェッカーで勉強して、などということは考えないはずです。残念ながら後者が多いように漠然と感じていますが。
      で、わたしがこのブログ記事を書いたのは、正論も必要だと考えるためでもあります。「本来はこうなんだけどな」ということをできる限り広めたい気持ちがあります。
      ただし、議論を進める場合には、理想だけではなく、現実を見る必要もあると考えます。今回コメントをいただけたことに感謝いたします。

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