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翻訳とWeb制作を基礎から分かりやすく学ぶ

エージェントに入ってよかったこと、CATツールの長短がわかったこと

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エージェントに勤めて10年以上。とはいえ多言語案件が多く、翻訳者を目指す私自身にとってプラスになることがあったのかどうなのか。得られたことがあるとすれば、CATツールについての理解でしょうか。

10年以上前、翻訳を専門的に学んでいなかったころ、『翻訳事典』を読み、Tradosというツールがあることを知りました。その後、転職を考え、職探しを始めた矢先、このTradosなるツールを使う仕事の募集を見つけてしまいました。

入社当時はとにかく新しいことを覚えることに、また業務をこなすことに必死で、このTradosというものが翻訳にとってどういうものか落ち着いて考える余裕はありませんでした。しかし今、10年以上経ち、CATツールのことも分かってきたため、そのことについて少し書いてみたいと思います。

CATツールは良いのか悪いのか

まず結論から。当たり前かもしれませんが長所もあれば短所もあります。

ソースクライアント、あるいは多言語プロジェクトをコーディネートする側としては長所が大きいと考えることができます。

翻訳をする側としては長所が一部、短所が残り大半というくらいに感じています。また、翻訳支援ツールが必須とされている案件は、翻訳の面白さを感じにくいのではないかと思っています。

つまり、翻訳資産の流用に重きを置く、またその運用で大きな効果が出る分野の仕事にとってはCATツールは重宝され、その一方で翻訳というものに楽しみを感じている人にとってはその楽しみを奪われるようなものではないかと思うのです。もちろん使い方次第ですが。

ネコと翻訳と私

では、私が個人的にはCATツールを使っていないかというと、使っています。【CATツールを利用する】効率化と用語管理にも書きましたが、ツールに使われるのではなく、ツールを使えば問題ない、あるいは負の影響を抑えられると考えています。

CATツールの一番の問題は、分節単位での作業となるため、全体の流れを掴まず、文章単位でなんとなく字面で訳してしまうくせがついてしまうことではないかと考えます。

私はまだこれから翻訳技術を向上する身であり、また訳文にも改善すべき点が多いと考えているため、To CAT or not to CAT—自分に合った翻訳方法模索中にも書いたように、CATツールを使用する際は限定的にするよう注意しています。

CATツール必須の案件やパッチワーク翻訳は受ける?

ソースクライアントや翻訳会社にとっては長所が大きいとなると、CATツールの使用を必須としたり、新規翻訳箇所のみ抽出した「パッチワーク翻訳」といった案件は必ず発生します。

ご存知の通り、このような案件での単価設定はマッチ率に準じたものとなり、その対価は実際の作業に見合わないものが多いと感じます。

それなりに生活できるだけ仕事のある翻訳者さんであれば、そのような案件は無理して受ける必要はないでしょう。金額的にもメリットはなく、また気づかないうちに能力が下方に引きずれれる可能性もないとは言えません。

私のようにフリーランスになりたての人間は、仕事があればできるだけ受けようとするでしょう。しかし、そうであっても、CATツールの便利な点とともに悪影響についても理解して取り組まなければならなりません。分かっていても悪影響を受けてしまう恐れはあります。せめて理解してその影響を最小限に抑えましょう。

また、受注する案件がCATツールを使うものばかりであるならば、仕事以外ではCATツールを使わない翻訳の訓練をするなど努力を欠かしてはならないでしょう。技術向上のためというよりは、低下を防ぐためです。

CATツール必須の案件に求められる品質

悲しいかな、CATツールを必須としている案件の場合、クライアントが翻訳品質については無頓着であることも少なくないという印象を受けます。CATツール導入には、コスト削減や工数削減といったメリットを重要視されたことが背景としてあるため無理もありません。

誤解してほしくないのですが、誤訳をはじめとする間違いがCATツールを使ったからあってもよいというわけではありません。クライアントもそのようなものを最初から認めるつもりはありません。ただ、訳文としての仕上がり、つまり読みやすさというような品質までは求めていないことが多いと思われるということです。

CATツールが使用される翻訳資産の流用度の高い分野は取説などであることが多いことから、開発日程が最優先され、そのため「意味が間違いなく伝わっていればよい、それ以上の品質を求めるほどお金も時間もかけていられない」というのもやむを得ないことではあると思います。

翻訳品質や翻訳者への影響

翻訳者がどう個人的に頑張っても、CATツールを使うことによって翻訳品質や翻訳者の仕事に対して影響はあります。

ハイマッチ(例えば90%マッチなど高いマッチ率)の訳文に誤りがあったらどうするでしょうか。ファジーマッチとして提示された翻訳候補が低品質と感じられる訳文だったらどうするでしょうか。一度登録されると、以降の翻訳はそれに倣うよう指示されることもあります。間違いや低品質が引き継がれてしまいます。

間違いや低品質を防ぐためには、定期的に翻訳メモリのメンテナンスをする必要があります。しかし、案件が重なり、翻訳ユニットが蓄積された膨大な翻訳メモリを見直すとなると大変な時間とコストがかかります。そのため、メンテナンスを実施されるクライアントは少ないと考えられます。

結局、翻訳メモリの品質が低下する可能性は排除できず、というより恐らく蓄積され大きくなるにつれて品質は低下するでしょう。それを基にして翻訳すれば、良いものができるはずありません。

またパッチワークのような案件だったらどうでしょうか。周囲が見えていれば前後の流れまで考えられますが、翻訳対象だけが抜き出されていて前後が分からないことがあるかもしれません。このような案件で迷惑を被ることになるのは結局のところ翻訳者です。

翻訳対象にしかお金は発生せず、実際は翻訳対象の前後も読んで判断する必要があり、前後がなければ想像するなど無駄に考える時間がかかってしまいます。料金に見合わない仕事になることも多々あると思われます。当然、文書全体で見れば品質は低下します。

まとめ

またしてもまとまりのない文章になってしまいました。

ツールというのは、その言葉通りあくまで道具にすぎません。道具を効果的に使うか、道具に使われてしまうか、それは使う側に委ねられます。しかし、翻訳は受注産業であるため、発注者から道具の使い方まで指示されれば、それに従わざるを得なくなります。つらい立場です。

ただし、ツールやその運用に依る問題が発生したときに、それなりに説明できる程度にはCATツールのことを理解しておく必要はあるかもしれません。翻訳会社から受注しているのであれば、その翻訳会社が間に立って守ってくれればよいのですが、必ずしもそれを期待できるは限りません。

CATツールの長所と短所が分かったことは、これから翻訳者として身を立てようとする私にとってはよい機会だったと思います。


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