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翻訳とWeb制作を基礎から分かりやすく学ぶ

第29回JTF翻訳祭に行ってきました(前半)

10月24日木曜日、パシフィコ横浜で開催された第29回JTF翻訳祭に行ってきました。昨年の京都は行けなかったため、1年ぶりの参加です。今回の報告は2本に分けてお伝えします。まずはその前半である午前の部です。

この報告は、セッションで配布された資料、自分でとったメモ、それに自分の考えを足して書いています。間違いなどありましたらご指摘いただけますと幸いです。また、「これは公表されては困る」という部分がありましたらご連絡いただけましたら即刻削除修正いたします。

報告を書いているうちに少々長くなったため2本立てにしましたが、報告の内容が濃いか薄いかについては保証できません。比較的薄く浅いと思ってください。(いつも通り。)心の広い方のみお読みください。翻訳祭自体は非常に中身の濃いものであったことを申し添えておきます。

言い訳が続きましたが、報告に入ります。わたしが参加したセッションは次のとおりです。(登壇者敬称略)

セッション1 質を守る翻訳者の工夫~原稿受領の時点から(齊藤 貴昭、高橋 さきの)
セッション2 目指すは「三方よし」!(豊田 憲子)
セッション3 フリーランスの税務申告と節税対策(秋本 達雄、井口 富美子)
セッション4 玄人な関係を築くための本音トーク90分(齊藤 貴昭、平野 幸治)

ここではセッション1とセッション2について報告いたします。

(同じ時間帯で迷うセッションはありましたが、一番悩んだのがセッション4、遠田和子さんの「『等価である』とは?英訳で考えてみよう」でした。わたしはエージェントでローカライズの原文としてクライアントから提供された英語を読み、呆れて、修正提案をすることも多々あります。そのため、このセッションには興味があり、また必要であるとも感じ、最後の最後まで悩みました。どなたか詳しいレポートがあるかもしれません。楽しみに待とうかと思います。)

セッション1 質を守る翻訳者の工夫~原稿受領の時点から

※このセッションについてのみ比較的詳細にレポートします。理由は簡単、詳細な資料が配布されたためです。振り返ることができます。決してわたしのメモがすばらしいというわけではありません。(だまっておけばいいのに…)

前半は高橋さきのさんのお話でした。

本題に入る前に、浜松市の防災メールの誤訳が紹介されました。わたしたちは、あれが機械/自動翻訳によるものであり、十分なチェックがされなかったことによる結果だとわかっていますが、世間はそうではないであろうこと、そのため、わたしたちが自分の仕事を説明できないといけない状況だという言葉に重みを感じました。「A言語をB言語に訳す」だけでは不十分なのです。原文を読んだら、頭の中で絵を描いて、それを訳文で表現し、原文読者と訳文読者が同じイメージを受け取れるようにすること、そこまで理解してもらって、初めて翻訳がどういう仕事か伝わったと言えるのだろうと思います。

この後本題に入りました。

「文章の品質」とは、まず「伝わる」という基本機能を果たしているかどうかで評価する。これは、書いた人の考えを追うことができるような文章なのか、書いてあることがなんとなくわかる程度の文章なのかということです。さらに、1段落に1箇所でも意味不明なところがあると、書いた人の考えを追うことができなくなり、読者が迷うことになってしまいます。

これは、原文対象読者と訳文対象読者が同じ絵をイメージできるかどうかということです。つまり、翻訳者が原文を読んでまず頭の中で正しい絵を描き、それを訳文言語で表現できているかどうかです。字面だけで訳出しようとすると、往々にして意味不明なものが出来上がるのではないでしょうか。

この翻訳のプロセスをわかりやすく理解できる絵も紹介されました。カエルが助走してからきれいな弧を描いてジャンプするというものです。「助走しながら《絵》を完成させて、そこでぴょーんと訳文に跳ぶ」のです。このジャンプが翻訳の山場で、丁寧に訳文を作り、丁寧に着地するというわけです。少しでも怪しいところがあれば、助走からやり直す(原文を読み直す)のです。

このプロセスの中で、辞書の出番は2回あります。1回目は「原文から《絵》をかくとき」です。この時は英英辞典や英和辞典を引きます。2回目は「《絵》から訳文をつくるとき」です。ここでは類語辞典、または英和辞典を日本語の類語辞典として使用します。

次に、翻訳プロセスの変化と、機械に何を任せるのかについてお話がありました。プロセスの変化については、手書きやタイプライターから出発し、ワープロやコンピューターに移行し、さらにマクロなど機械の利用が広がってきたというものです。そうなると、何を人が行い、何を機械に任せるかを考える必要が出てきます。これを正しく判断するためには、翻訳の工程を整理し、理解する必要があるということです。翻訳者としてだけでなく、エージェントでも、というかエージェントこそ正しく理解する必要のあることだと感じました。

後半は齊藤 貴昭さんのお話でした。

2年前の翻訳祭で齊藤さんは「超高速版!翻訳チェックの組立て方」を講演なさいました。その時は翻訳後のチェックについてでした。今回は原稿受領から翻訳までに的を絞ったお話、つまりそもそもミスを発生させないようにするためにどうするかというお話でした。

まず、翻訳の質を守る上での考え方を3つご紹介いただきました。
・最初から間違えないようにする。
・間違えても、間違いに気づけるよう(な仕組み)にする。
・人の能力を過信しない。

間違いにもいろいろありますが、一番最初に思いつくのは「誤訳」ですね。次に思いつく中には「誤記」があると思います。これを誤訳より軽く考えている人がいるかもしれませんが、「誤記は誤訳」と指摘されていらっしゃいました。情報が間違っているので誤訳であると、その通りですね。

齊藤さんが注意されていることに「原稿を汚さない」「複製を作ってあれこれ細工する」というものがありました。これは習慣にするとよいと思います。原稿など受領したデータ、複製して作業、それを複製して納品、のように各段階を追えるようにしておくとよいとわたしも考えます。こうするとデータの混同を防げるほか、間違った場合に前の段階に戻ることもできます。

翻訳の事前準備として、自分で翻訳しやすいように形式を変換されているとのことでした。齊藤さんは知る人ぞ知るマクロ、WildLightの開発者です。やはりMS Word形式に変換して翻訳されています。

その後、複数の資料を作成されているようです。ポイントとなる箇所に色付けしたり、置換したり、コメントを入れたり。詳細はどこまでなら書いて差し支えないか悩んだため割愛いたします。一昨年の齊藤さんの講演はあまりに評判がよく、各地で再演されました。今回のチェックについてもそのようになるとよいですね。

質疑応答では、画面で見るか紙に出力して見るか、という話が出ました。高橋さんも齊藤さんも、やはり最終形と同じ形でチェックするのがよいというご意見でした。実際、同じ訳文を縦書きにするだけでもまるで違って見えるものです。注目すべきと感じたのは、文書の種類によってフォントを選ぶということです。たとえばリーガルならSerif系を選ぶなどです。印象が全然違うということです。わたしもそのようにすることがあります。確かにチェックするときの気持ちが変わります。

セッション2 目指すは「三方よし」!

登壇者の豊田さんは『翻訳事典2019-2020』に「AI時代に賢く生きる勝者 7つのアイテム」を寄稿していらっしゃいます。これを拡張したセッションの要望があり実現したものです。今回のセッションでも数々のポイントをご紹介いただきました。以降、メモを取った内容を転記するだけですがご容赦願います。自分で調べるヒントにはなると思われます。

1) 安請け合いはトラブルの元
よく内容を吟味

お客さんの要求を知り、それに応えられるか評価。
すぐに回答してほしいと言われても、せめて半日はほしい。
できれば原文を見て判断する。
吟味のポイントは、分野、分量、難易度。
引き合いも勝手に解釈しない。「~のように解釈しましたが、理解は正しいでしょうか」のように確認する。
事前確認項目は「分量」「納期」「単価」「付属材料」「リテラシー」。
ファイルに不備があった場合は正しいものを要求する。
リテラシーについて、倫理的な問題があればクエリしてもよいのではないか。

2) 翻訳以外の作業は入れない
DTP作業は翻訳とは別作業 → 別明細

3) MT+PE作業をどう判断?
人間翻訳より工数大 → 手間大 → なぜ、人間翻訳より割安???

人間翻訳でもそうだが、一通り読まないと意図を掴めないものがある。正しく読む必要がある。正しく読んだことを評価してほしい。
翻訳前後のプロセスを人間が行っていても、真ん中の翻訳プロセスがMTだとダメだと思う。
「サービス」でやってやるべきではない。

4) 消費税は外税徹底
2019年10月8%から10%へ
★本体価格を明確にしないと不利

違反の場合は相談をする。中小企業庁のウェブサイトを見るなどするとよい。
振込手数料は支払い側が負担すべき。根拠は商法576条、民法484条。
[注意]翻訳者が契約書の振込負担項目に署名すると、法律より契約内容が優先する。

5) 未収金を回避
振込日は早めに設定(下請法:原則60日以内)
遅れたら請求 → 督促 → 内容証明

6) 作業&交渉内容の文書化
① 引き合いから納品まで交渉内容と進捗状況を文書に → 備忘録とエビデンス
② 電話内容も覚書 → 相手に確認(「正式な連絡はいつごろいただけますか?」と確認する。また「その間に別の仕事が入ったらそちらを受けます」とも伝える。)
③ 引き合いに「正式」「仮」を明記
④ 交渉内容テンプレ表 → 要件をすべて記入して相手に確認

7) トラブル解決は早めが肝心
おかしいと感じたら、まず自分で調査 → 中小企業庁 → 公正取引委員会 → 交渉 → 弁護士

[追加]特定商取引法
会社概要にヒントが隠されている。
① 本当に会社がそこにあるのか
② 電話番号は実際に使われているか
③ 売り上げにごまかされない
④ メインバンクの記載は大事

[ポイント]弁護士相談の準備
① これまでの経緯を表に作成
② 証拠となる資料も必ず持参
③ 何が問題点で何を要望するのか簡潔に
④ 問題が大きくなる前に

[品質保証の理想形]
翻訳者、翻訳会社、クライアントの3者が対立するよりも協力する方がよい。
問いかけも前向きに、協力的にした方がよい。
日本語という文化を守る社会的責任がある。

豊田さんのお話は、翻訳者として知っておくべきことであると同時に、翻訳会社やクライアントも理解しておくべきことと感じました。あるべき姿が常識になるとよいですね。

ここで午前の部は終了です。後半に続きます。


コメント

“第29回JTF翻訳祭に行ってきました(前半)” への2件のフィードバック

  1. Musashino より:

    有用なレポートをありがとうございます!
    翻訳祭に行けなかったので、とてもありがたいです。
    振込手数料負担の根拠条文について、色々な考え方があると思いますが、このような説明もありました。
    http://jtaxs.com/ichiro/info-20190702-18
    振込手数料は、これから値上がりする流れもあるようですし、発注側に負担いただけると助かりますよね。

    • kyasu04 より:

      コメントをいただきありがとうございます。
      翻訳祭、来年は参加できるといいですね!
      振込手数料については、もちろん自分が損をしたくないという観点からいろいろ仰る方がいらっしゃるようですが、基本的に債権者ではなく、債務者が負担するものです。民法の485条に明記されています。ただし「別段の意思表示がないとき」となっているため、講演でもお話がありましたが、契約時に振込手数料負担に同意してしまわないように注意が必要ですね。

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